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ねぎとろ丼

ねぎとろ丼

変わらないで

※ネチョ表現、百合表現は含みません。どたなでもどうぞ。


















   『変わらないで』



 紅魔館の門で、門番の悲鳴が聞こえた。また魔理沙か。それとも、別の誰かか。
「失礼します」
 親愛なる小間使いの声が私を呼ぶ。咲夜だ。
 わざわざ私のことに来たということは、魔理沙以外の誰かが尋ねてきたのだろうか。
「幻想郷の閻魔様がお見えになってますが、いかが致しましょう」
「……なんですって? それは、咲夜がいつか会った奴ね?」
「その通りに」
「まあいいわ、通しなさい」
「かしこまりました。失礼します」
 咲夜が部屋を出て行く。私に何の用があって来たのだろう。
 聞くところによると、幻想郷の閻魔は死者ではなく、生前の者に説教をすることがあるようだ。
 この私に説教をしようと言うのだろうか? おもしろい。どんな説教をするのか楽しみだ。
 咲夜が扉をノックする。開け放たれ、そこに現れるのは閻魔四季映姫・ヤマザナドゥ。
 美鈴はあっさり倒されたのか。衣服に乱れはなく、呼吸も落ち着いている。
 使えない門番ね。それとも、この閻魔は美鈴と比べ物にならないほどの力を持っているのか。
「はじめまして、幻想郷の吸血鬼」
「ようこそ紅魔館へ、楽園の閻魔。いつのことか、うちの咲夜が世話になったみたいで」
 悔悟の棒を手にやってきた映姫。閻魔であろうと、のこのこと一人で来るとはおめでたい奴だ。
「咲夜、お茶を入れてあげなさい」
「かしこまりました」
「いいえ、お構いなく」
「そう? あなた説教は長いと聞くわ、映姫」
「皮肉ですか、その言い方」
「あなたが倒れてくれれば、説教なんてすぐ終わるでしょうけど」
 私の言葉を聞いた映姫の目に、勇ましい光が点る。
「レミリア・スカーレット」
 映姫が私を呼んだ。呼ぶというよりも、何かをするための宣言という感じ。
「そう。あなたは少し、我侭すぎる。情けをかけてくれる者や、目上の者に対するありがたみや心配りをあなたは全く知らない」
「当然よ。皆、私にひれ伏すべきなのだから」
「……その傲慢さもいけないことです。数々の悪行を考えても、あなたは地獄以外に堕ちるところはないでしょう」
「構わないわ。その地獄で天下を取ってやるから」
「魂だけになってもなお、同じことが言えますか? 地獄を支配してやろう、などと」
「そうね。今ここであなたを倒して見せれば、少しは証明できるんじゃないかしら」
「……これ以上何を言っても無駄ですね。人の話さえ聞こうとしないあなたには、裁きを与えざるを得ません。悔い改めなさい!」
 映姫がスペルカード発動を宣言。直後、大口径のレーザーが迫る。
 大きく跳んでかわすも、折角のおべべが少し焼けてしまった。
「お嬢様、お手伝いいたしましょうか?」
 遠くから咲夜の声が聞こえた。私は映姫にはにかんでみせた。そんな弾幕に当たらないと言わんばかりに。
「けっこうよ、控えてなさい」
「かしこまりました」
「反省しなさいー!」
 閻魔はお怒りなのか。私と咲夜のやりとりさえ邪魔する。
 広いとはいえない部屋の中で極太のレーザーを放つものだから、好き勝手に壊され放題である。いい迷惑だ。
「省みなさい。悔やみなさい。自照しなさい。改心しなさーい!」
 次々と飛ばしてくる光線を掻い潜り、映姫に近づく。閻魔の血はどんな味がするのだろうか。そう思った。
 手に力をこめ、どんな物も引き裂く爪を伸ばす。これで血祭りにしてやろう。説教を垂れることなく、悲鳴を上げさせてやる。
 そして一滴残らず血を啜ってやろう。いや、そこまで吸いきれないが。
「ラスト、ジャッジメーン!」
 光線を避けて、肉薄。手を振るった。しかし手ごたえはない。映姫が消えた? 違う、後ろに回られたんだ。
 察知したときに反応しても、遅い。悔悟の棒で頭を強打されてしまった。
「いままで自分の周りの者とどんな接し方をしていたのか、振り返りしなさい。それが今のあなたに出来る善行です」
 片言で何か聞こえる。頭が痛い。意識はそこで落ちた。

 目が覚める。頭のてっぺんが痛い。そうだ。私は映姫に叩かれて、負けてしまったのだ。
 起き上がる。ここは私の部屋ではなかった。きっと、私の部屋は悲惨なものになっているのだろう。だから別の部屋に運ばれた。
 扉が開けられる。咲夜が氷を持ってきてくれた様だ。
「お嬢様、たんこぶが出来ています。横になっていてください」
「……」
 言われるがまま、横になった。頭に氷の入った袋が乗せられた。
「あの閻魔は?」
「すぐに帰っていきました」
「そう……」
 天井をみつめた。とても落ち着いている。少し考えた。あの閻魔の言うとおりにすべきなのだろうかと。
 閻魔は私には想像できないほどの魂を裁き、人の生を見てきたのだろう。だから、奴の言う事は正しいかもしれない。
 それでも納得できない。私は吸血鬼。幻想郷最強、であるはずなのだ。
 全ての生きとし生ける者全てが私にひれ伏すべきなのだ。人外さえも。
 あの閻魔にもそれを教えてやりたかった。だが、その結果がこれだ。
「ねえ咲夜」
「なんでしょう、お嬢様」
「……私は、周りに迷惑をかけるほど我侭なのかしら」
「ええ」
 即答。包み隠さない、真っ直ぐな答えだった。
「咲夜までそんなこと言うなんて、酷いわね」
「本当のことですわ」
「……」
「でも」
「うん?」
「そんなお嬢様だからこそ、大好きなんですよ」
 咲夜の笑顔が見えた。心優しい、人間的なもの。
 彼女は近づき、私の頬に口付けをした。胸に何か暖かいものを感じた。
「お嬢様は、お嬢様が一番です。あんな者の言うことなど、聞いてはいけません」
「えげつないことを言うのね」
「でも、自分勝手じゃないお嬢様なんて気味が悪いです」
「そう。ありがとう、咲夜。愛してるわ」
「どういたしまして。わたしも、愛していますよ」
 部屋の片付けに戻ると言って、部屋を出て行った。
 あの閻魔の言うことを間に受けた私に、咲夜は無視してしまえと言った。
 それは今のままの私でもいいということ。変なに意識する必要はないということ。
 我侭な私を、愛してくれているということ。
 この場に咲夜ではなく、パチェがいても同じことを言ってくれるのだろうか。
 我侭なレミィもおもしろそうだけど、やっぱりいつものレミィがいい。とか。
 もし、また閻魔が現れたら。その時はそう言ってやろう。
 私の周りの者は皆、我侭な私が好きだと。
 そして思い知らせてやるのだ。
 故に私であると。吸血鬼、レミリア・スカーレットであると。

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